欧米では・・・

  「欧米では・・・」というのは、私が子どもの頃から何度も聞いた、自己の見解を正当化するための常套句だ。

 「欧米」と言っても、おそらく、アメリカのことだったのだろうが、当時は、経済的にもアメリカに圧倒されていたわけで、「欧米では・・・」と言いたくなる大人達の気持ちも分からないではなかった。

 その後の高度成長を経て、80年代に入ると、アメリカの自動車産業の労働者が日本車を叩き潰すシーンなどをテレビで見かけたり、バブル期には、日本企業が、アメリカの富の象徴とも言うべきロックフェラーセンターを買収したという報道がなされるなどして、日本人も、自信を付けたようで、「欧米では・・・」という言葉を見聞きする機会も減っていった。

 ところが、今日、久々に、この「欧米では・・・」に遭遇した。養老孟司の「文系の壁」42頁の一節だ。
 

 欧米では、木でできた車のおもちゃを小さな子供がもらったら、周りの大人は「この車の色はお前が決めるんだ」と言います。小さい頃から、行為の主体が誰かをはっきりさせる訓練をしているのです。


 いったい、全部で50数カ国ある欧米の、何カ国で、そういう習慣があるというのだろうか。

 仮に、アメリカ一国に限ったとして、車の色の話は、いったい、何人のアメリカ人から具体的な話を聞いたのだろうか。
 
 例えば、死刑廃止論を論じるに当たって、「欧米では・・・」というのは、国ごとの制度を問題にしており、その内容自体の真偽は明らかであり、議論を正当化する論拠とするのもいいだろう。もちろん、欧米で多数だからと言って、直ちに日本も習うべきかというと、必ずしもそうではないが、話に持ち出すこと自体は、まあ、いいだろう。 
 
 これに対して、車のおもちゃの話は、実証的な裏付けのない話だろう。まさか、EUで、国民性の調査を行い、そこに、車のおもちゃに関する質問があって、多数が、上記のような回答をした、という訳ではあるまい。

 おそらく、養老氏は、様々な実例から、「小さい頃から、行為の主体が誰かをはっきりさせる訓練をしている」という結論を導いたのであるが、それを論じるに当たって、その実例の一つを持ち出したのか、適当に創作したのか、いずれかだろう。

 せっかく、この辺りまでは、概ね、「なるほど、なるほど・・・」と思いながら読み進めてきたのに、途端に、「この人の言うことを鵜呑みにするのは危ないな」と認識を改めた次第である。

 
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