段階的詳細化 その2

 昨日、道案内の説明について書いたが、「段階的詳細化」が優れているのは、この場面にとどまらない。

 たとえば、あなたが弁護士で、法律相談で、こんな話をされたとしよう。

主人は、いつも帰りが遅いんです。早いときでも晩の9時で、12時過ぎることもしばしばなんです。その上、一泊二日の出張も、最近では、月に4,5回はあるんです。行き先は、だいたい決まっていて、名古屋か東京なんですが、割合は、3対1くらいで名古屋の方が多いんです。出張は前から月に1,2回はあったんですけど、半年ほど前から、すこしずつ増えたんです。もともとは、名古屋と東京で同じくらい出張があったんですけど、東京出張は前と変わりないんですが、名古屋の方が3倍くらいに増えたんです。出張先でも、必ず、晩には電話をくれていたんですが、最近は、電話をくれることも少なくなったんです。仕事と思って、こちらも遠慮していたんですが、この間、電話をしたときは、着信音が鳴っているだけで、電話に出ないんです。出張から帰ってきて、そのことを話したら、お客さんを接待中に電話をされても出られる訳がないだろう、少しは、仕事のことを考えろと、逆ギレされて、喧嘩になったんです。・・・


 本人は一生懸命、ことの経緯を詳しく話そうとしているのだが、聞いている方は、要するに、どういう状況で何をもとめているのか、という全体像が分からない。

 仕事が超多忙ということなので、残業代、あるいは、過労死の心配か、とも考えれなくもない。仕事が忙しいことによる、夫婦間の軋轢かも知れない。ひょっとすると、出張先での女性関係の話かも知れない。

 ともかく、全体像が分からないので、一つ一つの事実の位置づけができず、話す言葉の一つ一つの重要性が理解できないまま、すべて、同じレベルの注意力を維持しなければならない。こんな話を延々とされると、集中力も段々なくなってくる。

 では、こんな相談ならどうか。

主人が浮気をしているみたいで、別れたいんです。最近、急に出張が増えたと思ったら、それは嘘で、女の人のところに泊まっていたみたいなんです。出張が嘘だというのは、たまたま、会社の同僚の方から家に電話があって、発覚したんです。女の人がいるというのは、主人が入浴中にスマホに残っていたメールを見たら、それらしいメールが出て来て分かったんです。そのメールは、すぐに、自分のスマホで写真を撮りました。メールによれば、相手は名古屋支店の社員で、付き合い始めたのは、半年くらい前のことで・・・


 これなら、楽である。

 まず、離婚したい。理由は、夫の浮気。証拠となるのは夫のメール。女性との具体的な関係は、メールの中身を見るなり、聞いてい行けばいい。

 聞きながら、離婚調停申立書なり離婚訴訟の訴状の骨子も、自然とできあがる。裁判所に提出する証拠説明書も、できそうである。

 ただ、誰もが、こんなふうに要領よく話せるとは限らない。

 以前、病院に行って医師に説明をしたときのことだ。

 一週間くらい前のことから、順に話し始めたのだが、話す内に、医師に、より正確に分かってもらおうという意識が働いて、どんどん話が細かくなって行く。そうすると、なかなか、現在の症状までたどり着けない。

 医師が、途中で質問も差し挟むことなく、ただ、ひたすら、こちらに耳を傾けているのに気づいて、はっとした。

 法律相談を受けているときも、そんなシーンがあった。だいぶ前からのできごとを時系列に沿って話してくれるのだが、非常に詳しくて、なかなか、話が進まない。聞いている側としては、とにかく、今どうなのか、何を求めているのか、全体像を知りたい。

 とりあえず概要を本人から聞いて、その上で、必要に応じて細かいことを質問して行くというのは、弁護士も医師も同じである。

 私は、先ほどの話は中断して、とりあえず、今どんな状態で、何が不安なのかを話した。

 医師は、ほっとしたようだった。

 典型的な例として、弁護士や医師に話をする場合を上げたが、実用的な話なら、一般的な会社での業務も皆同じであり、まずは、全体像であり、必要に応じて詳細な説明である。

 ただ、あくまでも、「実用的」な話である。小説やエッセイで、そんなことをしたら、興醒めである。

 また、「実用的」な話でも、何らかの効果を狙って、全体像、結論を後回しにすることもないではないが、ちゃんと、それを意識してやるべきであり、その場合も、その効果と、全体像を話すことによる相手の理解の促進とを、十分に比較考量した上で、行うべきである。

 「無頓着」は駄目なのだ。



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 ところが、そんなことには無頓着な人も多いようで、読者に対する配慮の一欠片もない文章を目にすることがあります。

 難解な文章で読者の貴重な時間を奪ってしまう人達のことを、「時間泥棒」と名付けました。

 このブログは、「時間泥棒」を立派に更生させることを目的として開設したものです。

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