伝達力と説得力

 このブログの使命は、「分かりやすさ」を追究することだが、「分かりやすさ」には、次の二つの要素を含んでいるように思う。

  情報が瞬時に正確に伝わること      (「伝達力」といってもいい)
  情報の内実が深く脳裏に刻まれること  (「説得力」といってもいい)

 両者は単純に切り離して考えることはできないのだが、これまで、前者を中心に論じてきた。今日は、主に後者について検討してみることにする。

 素材は、このブログの熱心な読者の方から提供された資料だ。

 国会議員の議員定数の不均衡、一票の格差に関する説明資料なのだが、1票の格差の問題を、より説得的に訴えるには、どうすればいいか、という観点からブログで取り上げてほしい、とのことだった。

 まず、次の表を見比べてほしい。

定数-1

 どちらも、参議院の選挙区の議員定数に関する表だが、①は、各都道府県の議員1人当たりの有権者数であり、②は、その数字を、議員1人当たりの有権者数が最も少ない鳥取県の数字で割ったものである。

 ①の表の数字は、皆、数十万から百数十万という、大きな、生の数字であり、これだけでは、どの程度の不均衡かは、直感的に分かりにくい。

 他方、②の表だと、議員1人当たりの有権者数が鳥取県の何倍かと言うことが、ストレートに数字で示されており、不均衡の度合いが、すぐに分かる。

 では、更に、次の表を見比べてほしい。

定数-2

 ②は、先ほどの②と同じものだが、③は、神奈川県の議員1人当たり有権者数を各都道府県の議員1人当たりの有権者数で割ったものである。

 念のため、注意を喚起しておくが、よく1票の格差に関する判決などで出てくる数字は、この③の数字ではなく、②の方の数字である。どちらも、1~5.08の数字が並んでいるため、同じように思われ勝ちだが、意味は違うので、注意が必要である。

 ②は、1票の価値をストレートに表現したものではなく、神奈川県の数字が鳥取県の数字より大きな数字で出てくるので、1票の価値が神奈川県の方が小さいということが、直感的に理解しにくい。他方、③だと、まさに、1票の価値そのものが数字で表現されているので、③の方が優れている。
 
 更に、次の表を見比べてほしい。

定数-3


 ③は、上の表の③と同じで、神奈川県の1票の価値を1としているものだが、④は、鳥取県の1票の価値を1としたものである(なお、数値としては、④は②の逆数となっている)。

 ③も④も一票の価値を数字の大きさで表現した点では同じだが、鳥取県の1票の価値が高すぎる(③)、と訴えるよりも、神奈川県の1票の価値が低過ぎる(④)、と訴える方が、何となく説得力がある。

 従って、1票の価値の平等の実現を求める場合は、①でも②でも③でもなく、④の表の数字を用いるべきである。

 さて、ここまで情報を表で表現してきたが、より直感的に理解してもらうためには、グラフや地図を用いる方がいい。

 次に掲げるのは、先の読者の方から提供を受けた資料が掲載されているウェブサイト【都道府県データランキング 1票の格差】からの引用である。

 まず、上記の③の表をグラフ化したのが、これである。
定数-4


 次に、同じグラフだが、地域的な不均衡が直感的に分かるように、北海道から南西方向に順に沖縄まで配列したものが、次のグラフである。
定数-5


 このグラフにより、地域的な傾向が直感的に分かるのはいいのだが、致命的な点がある。

 それは、左に北海道、右に沖縄を配した点である。

 地図の上では、右上に北海道、左下に沖縄となっているのであるから、グラフにおける配列も、それに従った方が、遙かに直感的に理解しやすい。このことは、以前のブログ【前列右から、加藤、清水、野間、高谷、石原、・・・】にも書いたとおりである。

 次の図は、【一人一票実現国民会議 参議院(選挙区)】に掲載されたものである。
 
定数-6


 この地図は、上記の棒グラフと比べると、次の2点で優れている。

   地図の色分けの基礎となったデータは、前記の④と同じものを用いていていること。

   地域的な傾向を示すには、棒グラフよりも地図を色分けした方が直感的に分かりやすいこと。

 ところが、ぱっと見て、鳥取県の黄緑だけが際立っていて、全体に赤茶色っぽく、選挙区毎の識別が困難である。例えば、広島、岡山、兵庫の3県が順にレベル8,9,10となっていることは、目を凝らさないと分からない。

 そもそも、人の目の識別能力の問題だろう。10段階に分けたから識別が困難になったのであり、これが5段階であれば、ぱっと見ても区別ができただろう。

 さらに、この地図は、色の選択も問題だ。両極端を赤と緑にして、その間をグラデーションにしたわけだが、途中の黄土色が、どうしても、赤と緑の中間の色だということが直感的に分かりにくいのだ。

 この点、両端を赤と青にすれば、途中の紫が、赤と青の中間の色だということが直感的に馴理解できるのだ。ただ、これは、私の個人的な感覚であって、あまり一般的なものではないかも知れない。

 翻って考えると、そもそも、数字の大小は一次元的なものであり、これを色のグラデーション表現するのに、有彩色を2種類、用いることが、疑問である。

 赤と白、あるいは、黒と白、といった、有彩色と無彩色、あるいは、無彩色同士にした方が、余分な情報が削ぎ落とされて、直感に馴染むように思う。

 なお、ここで、一次元情報だから有彩色を2種類使うのは考えものだと述べたが、気温の場合は、赤=高温、青=低温というイメージが定着しているので、赤から青のグラデーションでも、いいかも知れない。

 いろいろ述べてきたが、地図に着色するよりも、棒グラフで表現する方が、棒の高さは微妙な違いまでも区別できるので、優れている。とはいえ、地図に着色する場合でも、適切な工夫をすれば、直感的には理解しやすいのであるから、地図とグラフ、いずれも、甲乙つけがたい。

 最後に、地図の左側にある表になっている凡例で、一票の価値の低いところが上になっているのは、直感に反する。この点は【グラデーションのフェイント】に書いたとおりである。

 以上、配慮すべきことを色々述べてきた、整理のために、以下に、項目だけ列挙するので、これを参考に、読者自身の頭で納得行くまで、考えてほしい。私の指摘で納得の行かないところがあれば、ぜひ、コメントで知らせてほしい。

  生の大きな数字ではなく、比率を表す数字にする。
  大きい方がいい、という、一般的な感覚に沿ったものにする。
  訴える内容に適切なものを基準にする。
  表よりも、グラフ、地図
  現実の配置に表現上の配置を合わせる。
  識別困難にならないよう、過度の細分化は避ける。
  グラデーションは、グラデーションと分かるような色を選ぶ。
  有彩色の多用は避ける。
  大きい数値を上にする。

 なお、グラフの効用については、過去に、このブログでも触れている。

  ● グラフの効用
  ● グラフ作成に際し考えるべきこと

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 このブログは、「時間泥棒」を立派に更生させることを目的として開設したものです。

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