老舗企業は小規模企業? 全体を見なければ意味がない

 以下に引用するのは、「逆接の法則」56頁で老舗企業と企業規模との関係について書かれた一節だ(読みやすくするために、若干の整形を施している)。

・ 100年以上続く老舗企業の売上高を見てみよう。・・(中略)・・5億円未満の中小・零細企業が全体の約7割を占めていたのだ。
・ 従業員数別では ・・(中略)・・ 「300人以上」は全体の3.4%にとどまった。
・ 東証など国内証券取引所に上場する老舗企業は・・(中略)・・長寿企業全体の2%弱しかなかった。
これらのことから、規模を大きくしない方が実は長続きするのではないか、という推測も生まれてくる。


 要するに、売上高、従業員数、上場企業か否かという指標から、老舗企業には小規模のものが多い、従って、規模を大きくしない方が企業は長続きする、という「推測」をしているのだが、論理として飛躍している。

 老舗企業中における、売上高5億円未満の企業の割合、従業員「300人以上」の企業の割合、上場企業の割合が、それぞれ数値で示されているが、全企業中における割合も同時に示されなければ、割合の多寡を論じることは不可能である。

 ちなみに、全企業数は400万弱【転職グッド 大企業・中小企業の定義と企業数、従業者数】、上場企業数は4000弱【日本取引所グループ 上場会社数・上場株式数】であり、全企業に占める上場企業の割合は、約0.1%である。そうすると、老舗企業中の上場企業の割合が2%というのは、その20倍であり、むしろ、老舗企業の方が一般に規模が大きいという、正反対の結論が導かれる。

 ここで述べた論理の飛躍は、【オーケストラは理系のサークル活動?】【なぜ、一部の数字だけで納得できるのか】【割合の単純比較は、危険 シートベルト不着用の危険性】で述べたのと全く同質のものである。

 この本の著者である西成活裕氏は、数理物理学の専門家で、道路の渋滞や企業の生産活動などの領域に数理物理的手法を導入して社会実験を行うなど、様々な社会問題を論理的かつ実証的に解決しようと取り組んでいる気鋭の学者である。

 同氏の「渋滞学」「誤解学」「逆接の法則」などを読んだが、書店に溢れているビジネス書を100册読むよりも、この3册を読む方が遙かに有意義であり、もっと、こういった人が出てくればいいと思っている。

 それだけに、上記の論理の飛躍を目にしたときは、少し、がっかりしたのだが、優れた研究者でも、規模が小さい方が企業は長続きするという思い込みが強いと、「論理」ではなく、その思い込みを強く印象づける数字にのみ目を奪われて、論理の飛躍をしてしまうのだ。

 文章を書くときには、自分の思い込みで書いていないか、論理的に飛躍がないか、常に検証しなければならないということを、再認識した次第である。

----- 追記 2019.2.13 -------------------------------------------------------------------
 
 素材を提供していただいた著者の方に、この記事のことをお知らせしたところ、1時間もしないうちに、誤りを率直に認められて、今後は気を付けたい旨の、お返事をいただいた。

 なかなかできないことであるが、こうありたいものである。

 先日亡くなった梅原猛氏は、古代史に関する自説に対する批判を徹底的に検証した上で、自説の誤りを認めて、『葬られた王朝』という本まで書いたことで、一層、評価を高めた。

 けれども、自説の誤りが分かったら、それを改めるというのは、当たり前のことである。とはいえ、当たり前のことでも、当たり前にできないのが大多数の凡人であり、だからこそ、当たり前のことを当たり前にする人が評価されるのである。

 なお、昨日の記事に若干の字句の訂正や文字の修飾を施している。

 


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