とある法律相談

 弁護士会では自治体から法律相談の委託を受けて、弁護士を派遣している。ときおり、弁護士の対応が悪いという苦情が寄せられて、会として、事実関係を確認の上、担当の弁護士に注意を促すことがある。

 中には、まったくの「濡れ衣」というのも無いではないが、弁護士の側が、もっとうまく対応できなかったのだろうかという事例も結構ある。

 中には、こんな対応をされたら相談者が怒るのは当然だろうというものもある。

 次の例は正月明けの相談の対応例である(実例をもとにしているが、かなり脚色している)

相談者「この請求書を見て下さい。一年前の忘年会の後で寄ったスナックからの請求書です。とっくに払っているのに、慰謝料とれますよね」
弁護士「慰謝料?」
相談者「その場で払ってるのに、こんな請求書を送ってきたんです。先月も送ってきて、放っといたら、こんなのが来て。今度は、払わんかったら裁判するとか書いてますやろ。裁判かけたいのは、こっちのほうですわ。」
弁護士「それで?」
相談者「払ってるのに裁判かけるぞなんて脅して、こんな失礼な話ないでしょう。こっちから慰謝料とれますよね。」
弁護士「無理です。」
相談者「何であかんのです。こんなことされてるのに。」
弁護士「無理なものは無理です。」
相談者「ちゃんと払ってるのに、なんでですの」
弁護士「そもそも、あなたが払ったかどうか分かりませんしね」
相談者「払ってるから相談に来たんやないか。もう、ええわ」



 大きく問題点は、二つある。

【1】 相談者の求める法律効果に対応する要件事実が存在しないか注意する



 相談者は、「慰謝料」を求めているのである。弁護士なら、慰謝料請求権の発生要件が分かっていて当然である。他方、相談者は、そんなことは分からなくて当然である。

 相談者は、自分が見聞きした事実の中から、重要であると思われる事実を弁護士に伝えて、自分の求める権利が認められないか相談するのである。

 であれば、弁護士は、相談者が話した事実だけでは、相談者の求める権利が発生したとは言えない場合であっても、相談者の話していない事実で、かつ、相談者の求める権利の発生を基礎づける事実を想定して、そのような事実がないか、相談者に尋ねなければならない。

 本件で言えば、まず、慰謝料を求めるとすれば、不法行為に基づく請求ということになるが、単に、支払い済みの代金の請求書を送りつけただけでは、不法行為にはならないだろう。

 とはいえ、支払済みの代金の請求書を送りつける行為が、絶対に不法行為にならないかというと、そうでもない。

 たとえば、相手方に未払と勘違いさせて二重払いさせようという意図で請求書を送付したのであれば、立派な詐欺未遂であり、不法行為が成立することは明らかである。

 また、相手方に対する嫌がらせの目的で、執拗に請求書を送りつけるという場合も、不法行為の成立が認められよう。

 そうすると、そのような事案の可能性がないのか、相談者から、聞き出さなければならない。

 たとえば、「請求書が来たのは、今回が2回目ですか」とか「電話などでも督促はあったのですか」とか「請求書に対して先方に支払い済みということは伝えましたか」などの質問が考えられる。

【2】 相談者が主張する「事実」は実際に存在するものとして、話を聞く


 相談者が「払った」と言っていても、客観的には、実際に払ったかどうかは分からない、というのは、そのとおりではある。だが、ことさらに嘘の事実を話して法律相談を受けようという人は少ないはずであるし、相談相手の弁護士から「あなたが払ったかどうか分かりませんしね」と言われれば、腹をたてて当然である。

 もちろん、弁護士の立場からすれば、依頼者の話すことが真実であっても、それを裁判で立証できるかどうかは別問題であるから、立証手段の存否を確認するための質問は必要である。

 たとえば、「お支払いの時の領収書とか、振込受付書とかは残っていますか」という質問は欠かしてはならない。
 
 さらに、本件では、支払を証明できない場合、消滅時効の成否が微妙となる。1回目の請求書が、1年以内の送付であれば、その後、6か月以内に提訴すれば時効にかからないのであるから、いつ届いたかが重要である。
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「時間泥棒」仕置人 (改称予定)

Author:「時間泥棒」仕置人 (改称予定)
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 玉石混淆の情報が溢れる社会の中で、効率よく、的確に、情報を取得し、提供するには、どうすればいいのか、ということを常に考えています。

 ところが、そんなことには無頓着な人も多いようで、読者に対する配慮の一欠片もない文章を目にすることがあります。

 難解な文章で読者の貴重な時間を奪ってしまう人達のことを、「時間泥棒」と名付けました。

 このブログは、「時間泥棒」を立派に更生させることを目的として開設したものです。

 記事を読んで、自分も「時間泥棒」かな、と思ったら、早速、改めて下さい。また、あなたの廻りに「時間泥棒」がいたら、あなたの力で立派に更生させてあげて下さい。

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