番号、見出し、リード、本文

 前回、メーリングリストにおける注意事項を整理した記事を掲載した【メーリングリストにおける注意事項】。

 全部で7つの注意事項だが、1番目の見出しが、これだった。

メールの「件名」は、「一読了解」が不可欠


 その後、この見出しを、次のように変更した。

【1】 - 件名 -  メールの「件名」は、「一読了解」が不可欠


 ずっと、分かりやすくなったのでなかろうか。

 ここでのポイントは、次の3つだ。

【1】 - 番号 -  各見出しに、通し番号をつける

 最初に全部で幾つあるか明示されていた場合、通し番号があると、読んでいる最中に、「今、3番目だし、あと4つだな」というふうに考えることができ、読み手に安心感を与えるものである。


【2】 - 要約 -  各見出しを、さらに要約し、「ひと言」で、表現する

 「ひと言」の要約があると、自分のメールを振り返って、「『件名』は完璧だが、『空白行』は気をつけないと」と反省したりする際にも、それを強く脳裏に定着させる場合のキーワードとして有効である。


【3】 - 階層構造 -  見出し、リード、本文の階層構造で、理解を容易に

 この構造は、新聞記事が、「見出し、リード、本文」と段階的に、情報が詳細になって行くのと同じであり、読み手の理解が、「単語一つの標題」から、「1行足らずの説明」、「本格的な説明」と次第に進んでいくという点でも優れている。

メールに関する注意事項

 「分かりやすさが第一」の趣旨とは若干ずれる内容も含むが、メール、なかでも、メーリングリストで注意すべきことを整理しておく。全部で7つある。

【1】 - 件名 -  メールの「件名」は、「一読了解」が不可欠

 これについては、先日の記事を参照されたい【メールの件名は「一読了解」が不可欠】。


【2】 - 連絡先明記 -  自分の連絡先(メールアドレス、住所、電話番号、ファックス番号)を明記する

 メーリングリストへの投稿に対する返事はメーリングリストに宛ててするのが原則である。
 しかし、内容によっては、投稿者本人へのダイレクトメール、あるいは、電話、ファックス、郵便といった他の手段が望ましいこともある。そのような場合に備えて、これらの情報を明記しておくことが望ましい。

 なお、投稿の都度これらの情報を入力する必要はなく、メールソフトで設定しておけば、これらの情報は、自動的に付加することができる。


【3】 - 空白行 -  3行毎に、空白行を入れる

 メールソフトの画面は一般に行間が狭いことが多い。このため、例えば10行くらいが空白行なしで続いていると、文字ばかりで、非常に読みにくく、読もうとする気力すら萎えてしまう。他方、1行毎に空白行を入れると間延びした感じになる。概ね3行毎に空白行を入れるのが一番読みやすい。


【4】 - 不要情報の削除 -  「返信」の場合は、不要な情報は削除する

 メーリングリストに新たに投稿する場合、一々、宛先を指定するのではなく、メーリングリストからのメールに「返信」するという方法をとるのが普通である。この場合、メールソフトの設定によっては、元々のメールの内容が、送信用のメールの下の方に残っている場合もある。当然、これは、無関係な情報であるから、削除しておく必要がある。

 また、この場合、元々の「件名」を新しい投稿に相応しい「件名」に変更するのを忘れて、内容と全く異なる件名のまま投稿することのないよう、注意が必要である。

 新規の投稿ではなく、他の投稿に回答などをする場合、元のメールの内容が残っている方が、メーリングリストの参加者の理解という点で一般的には好ましい。ただ、「返信」「返信」を繰り返していると、膨大な量になり、かつ、その時の論点次第では、残しておく意味がなくなっている場合もあるので、不要な部分は削除して、シンプルにすべきである。


【5】 - 送信先の確認 -  特定人にメールをするときは、メーリングリストに対する「返信」は使わない

 Aさんにメールを送ろうと思って、Aさんからのメールに「返信」したところ、元々のAさんからのメールがメーリングリスト経由のメールだった場合、メーリングリストへの「返信」になってしまうので、要注意だ。送信者が「A」となっていても、それが、ダイレクトに来たメールか、メーリングリスト経由のメールかを確認しなければ、大変なことになってしまう。メールの誤送信で首になった新聞記者がいるくらいだ【メールの誤送信で解雇】。

 なお、メーリングリストへの「返信」についての詳細は、アイティメディア株式会社の「@IT」内の解説記事【不適切なメールの返信アドレス設定に注意】を参照されたい。


【6】 - 送信形式 -  HTMLメールは使わない

 HTMLメールの弊害は以下のとおり。
    ①サイズが大きい
    ②ウイルス感染の危険性が高い
    ③メールソフトによっては開けない

 Microsoftの標準のメールソフトでは、送信メールのデフォルト初期設定がHTML形式になっているので、テキストメールに設定し直す必要がある。設定法は、以下のとおり。
       Windows Live メール の場合
       Outlook Express の場合


【7】 - 適切な用語 -  「ご教授下さい」ではなく、「ご教示下さい」を使う

 「ご教授下さい」というのは、ある程度の範囲の事項につき、包括的に教えを請う場合であり、メーリングリストでの質問は、特定の事項につき教えを請うのが普通であるから、「ご教示下さい」でなければならない。

 メーリングリストで、自分の知識、経験を伝えるのは全く苦ではないし、それが他人の役に立つのは嬉しいことではある。けれども、「ご教授下さい」とまで言われると、「『ご教示』はするけれど、『ご教授』するほど暇ではない」と突っこみたくなるのである。

「長男の父親の不倫相手」は、男か、女か

 「長男の父親の不倫相手」は、男か女か。

 「長男の父親が不倫をしていた相手」であれば、常識的に考えて、女と思われる。

 だが、そもそも、「長男の父親の不倫相手」が「長男の父親が不倫をしていた相手」とは限らない。

 少し長くなるが、素材となった新聞記事を引用する。

 「息子の養育費を減らされ、将来を悲観した」-。5歳の長男を道連れに無理心中を図り、長男だけを死なせたとして殺人罪に問われたシングルマザーの女に対し、大津地裁は2月、懲役6年(求刑・同7年)の判決を言い渡した。公判で女が明かした動機が冒頭の言葉だが、それまで長男の父親の不倫相手から受け取っていた養育費は月60万円。
    【養育費40万に減額で「将来を悲観」、5歳長男を心中させた母親の身勝手(産経新聞2014.3.18)

 「長男の父親の不倫相手」というのは、実は、「長男の父親である不倫相手」ということだ。

 助詞の「の」は、様々な意味があるので、安易に使うと、理解が困難になったり、とんでもない誤解を招くこともある。

 例えば、「○○」の「××」、と言った場合、「○○」次第で、「の」の意味は異なってくる。

大学生の家庭教師 大学生である、家庭教師
小学生の家庭教師 小学生を対象とする、家庭教師
高校生の家庭教師 普通は、生徒が高校生なのだろうが、先生が高校生ということも、あるだろう

 稀ではあるが、「大学生の家庭教師」が、「大学生を対象とする、家庭教師」という場合もあるし、例えば、弁護士が司法試験を受ける大学生の家庭教師をするというのも、あるだろう。

 こんな例もある。

10歳の子どもを抱える母親  母親の年齢は、不詳
20歳の子どもを抱える母親  母親の年齢は、不詳、あるいは、20歳
30歳の子どもを抱える母親  母親の年齢は、30歳


 同じ「30歳」でも、こんな違いがある。

30歳の子どもを抱える母親         母親の年齢は、30歳
障害のある30歳の子どもを抱える母親  母親の年齢は、不詳


 次は、「○○」の「××」、と言った場合、「××」次第で、「の」の意味が異なってくる例である。

犬のお巡りさん  犬である、お巡りさん
犬の調教師    犬を対象とする、調教師


 さて、冒頭の例だが、「父親の不倫相手」の「の」だけでなく、「長男の父親」の「の」も多義的である。

長男の父親は20歳の時に家を継がざるを得ませんでした。  長男である、父親
長男の父親は2歳の時に亡くなりました。              長男にとっての父親


 何気なく使ってしまう「の」であるが、その前後の言葉の意味から一義的に明確な場合もあれば、そうでない場合も多々あるので、注意が必要だ。

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 格助詞「の」に関する文法的な解説は、以下のサイトを参照されたい。古文に関する解説だが、現代文についても参考になる。下記に引用するが、古文に関する部分は省略した。

(一)現代日本語における「が」と同じく、体言あるいは用言の連体形に接続して、主格、すなわち叙述の主体であることを表わす。現代日本語においては、「友人の通った大学」といったような表現にいまだこの用法が一部残されている。

(二)連体格を示す。二つの体言を繋ぎ、まえのをもって後続するものの内容を限定する。現代日本語の「の」と同じ用法である。限定の内容は、さらにつぎのように分けて考えることができる。

(イ)所有、所属を表わす。「私の家」「大学の教授」など。

(ロ)場所、時、位置、対象などを示す。「カナダの友人」「去年の夏」「山の上」「車の運転」などの例文があげられ、「ーにある」「ーにおいての」「ーにおける」「ーに対する」の意。

(ハ)同格の関係であること、あるいは原材料などを示す。「兄の太郎」「石のアーチ」などの例文があげられ、「ーである」「ーでできた」などと解説できる。
                                    【インターネット古文講座 楊暁捷 李康民

スペースの弊害

 判決文などで、よく見かける例である。

原      告 知 本    修

 まず、最初に目に飛び込んでくるのは、 「告知本」である。次に、左端の「原」に気付き、次に来る「告」と結びつけて、「原告」と理解できる。すると、次に来るのは人の名前だと予測がつき、「知本修」と読むことができる。時間にすれば、僅か1秒の100分の1くらいのものだろうが、それでも、脳にとっては余分なストレスである。

 これに対して、以下のように意味の塊ごとにまとめて書けば何の問題も生じない。

原告  知本 修

 「原告」も「知本修」も、単独で記載するのであれば、その中にスペースが入っていても問題はない。
ところが、両者を続けて記載するときに、それぞれの塊の中にスペースを入れると、その一塊としての一体感が失われ、別の一塊の一部と合体してまうのだ。

 こんな例も時折みかける。

田中 実氏は山田 隆氏の従兄弟です。

 姓と名の間にスペースを入れるというのは、名前だけを書く場合ならそれで何も問題ないのだが、一つの文の中で、姓と名の間にスペースを入れると、そこで文が途切れてしまい、読みにくいこと、この上ないのである。

 こんな文を平気で書ける人は、部分に捕らわれて、全体のことに目が行かないのであろう。

 と、他人事のように述べたが、「分かりやすさ」の追求も、一文ごとの分かりやすさを徹底すれば全体としても分かりやすくなるとは限らないので、部分の分かりやすさを追求すると同時に、かえって、全体として分かりにくくなっていないか、常に自分の書いた文章を批判的に見ることが必要である。

スペースの効用

いくつか、見比べてほしい。どちらが分かりやすいか一目瞭然だろう。

株式会社三菱住友海上火災保険関西支社京都損害調査課
株式会社 三菱住友海上火災保険 関西支社 京都損害調査課 

漢字が25文字も連なっていれば切れ目を探すのは大変である。

TEL075-253-xxxx FAX075-253-xxxx
TEL 075-253-xxxx FAX 075-253-xxxx

LやXの後の「0」ゼロが、アルファベットの「O」に見えてしまう。
アルファベットと数字が混在する場合、文字によっては、アルファベットとも数字ともとれるため、前後の文字と一体化して見えるので注意が必要だ。
 数字  アルファベット
  0    O (オー)
  1    l (小文字のエル)
  2    Z (ゼット) 
  9    q (小文字のキュー)
一体化を避けるには、スペースを入れるほかない。

同様の例は、漢字とカタカナの間にも見られる。
 漢字    カタカナ
  工     エ
  力     カ
  夕     タ
  卜     ト
  二     ニ
  又     ヌ
  口     ロ

 漢字とカタカナが隣り合っているところで、こういう漢字やカタカナを使うと混乱する。
 例えば、「山口もえ」なら、「やまぐち」と読めるが、「山口リエ」だと、どうしても、2番目の文字がカタカナの「ロ」に見えてしまうのである。混乱を避けるには、「山口 リエ」と半角スペースを入れるほかはない。

 混乱を避けるには、他にも色々方法はあり、たとえば、「女子力アップ」なら、「女子力UP」とか、「『女子力』アップ」とするとか、「今夕イラン国王晩餐会に出席」なら、「今晩イラン国王晩餐会に出席」とするなどの方法がある。

 なお、余談だが、「山口リエ」は、川島なお美から「山、ロリエ」と揶揄されたことがあるそうだ【Wikipedia】。

マウスの細胞を弱酸性液に浸し刺激を与えるだけで万能細胞を作る

マウスの細胞を弱酸性液に浸し刺激を与えるだけで、iPS細胞のようにさまざまな細胞になる万能細胞を作ることに、理研のチームが成功した。
                                                  【ITmedia ニュース


 一月半前に日本中が沸き立ったニュースだが、さて、万能細胞を作るにはどうすればいいのか。
 (もちろん、現時点では、実際に万能細胞を作ることができるのか真偽不明であるが、上記の文から読み取れる万能細胞の作成方法は、どのようなものか、という問題である)

 ①弱酸性液に浸すだけ
 ②弱酸性液に浸した上で、さらに別の刺激を与える

 「酸の刺激だけで万能細胞」といった記事も見かけるので、①が正しいのだろう。

 しかし、「弱酸性液に浸し刺激を与える」という表現では、①②いずれとも解される。

 こんな例を考えてみよう。

a. 「『手を引かないと命はないぞ』と言って脅迫する」という場合は、「『手を引かないと命はないぞ』と言葉を発する行為そのものが脅迫行為であり、脅迫行為としては、それで完結している。

b. 次に、「ハンカチで汗を拭いて脅迫する」という場合は、汗を拭いた行為は脅迫それ自体とは無関係であり、その後に、何らかの脅迫行為を行ったと言うことである。

c. ところが、「ナイフを取り出し脅迫する」という場合は、①何も言わなくてもナイフを見ただけで相手が十分に畏怖した場合は、ナイフを取り出すことで脅迫行為は完結したということになるし、②ナイフを取り出した上で、さらに「言うこと聞かないと・・」などの言葉を用いた脅迫手段をとったとも考えられる。

 冒頭の「弱酸性液に浸す」という場合は、①それだけで十分な刺激として完結しているとも解されるし、②弱酸性というのは刺激としては不十分であり、さらに別の刺激を加えるのだとも解されるのである。つまり、上記のc.のような場合ということである。

 そこで、いずれの意味であるかを明瞭にするには、以下のような表現にすればよい。

 ①弱酸性液に浸すという刺激を加える
 ②弱酸性液に浸した上で刺激を加える

以上に述べたことを抽象化すると、以下のようになる。

「AをしてBをする」というとき、AとBの意味内容から、場合分けされる。

a. AがBそのものとして十分だという場合     
   ① A以外の行為は行われない

b. AがBとは無関係という場合    
   ② Aとは別にBにあたる行為が行われる

c. AがBの一つの手段と解される場合、以下のいずれかである
   ① A以外の行為は行われない
   ② Aに加えて、Aとは別のBにあたる行為が行われる 
   
そこで、c.の場合、以下の表現で明瞭に区別することが必要となる。
 ①AというBを行う
 ②Aをした上でBを行う

「号」を捨てよ、「番」を使おう

 新件の相談の電話がかかってきた。
 
 電話の主は、先ほど一審の判決文を弁護士から受け取ったとのことだが、判決言い渡しは半月ほど前とのことで、控訴期限ぎりぎりのようだ。とにかく事務所に来てもらう前に裁判所に控訴期限を確認しようと思い、相談者に事件番号を尋ねた。

「にひゃくさんじゅうごです」
「にひゃくさんじゅうごごう、ですね」
「にひゃくさんじゅうごです」


 裁判所に電話をして、事件番号の235号と当事者名を伝えたのだが、該当の番号の当事者は別人だという。ただ、230号なら、その当事者名の事件があるとのことだった。

 要するに、相談者の「ご」は、「号」であり、私は、それを「五」と聞いていたのだった。私が念のため、「にひゃくさんじゅうごごう、ですね」と、数字の「五」の後に「号」をつけて確認したにも関わらず、その意図は伝わらず、「にひゃくさんじゅうごです」と返してきたため、私は、「号」をつけずに、数字だけ読み上げているものと思い込み、235号と判断したのだった。

 取り違えのないように、「号」は「ごう」と強く発音し、「五」は「ごっ」と短く発音するよう気をつけていたのだが、このときは、取り違えを生じた。その程度の工夫では、誤解は避けられないということだ。

 であれば、「号」を止めるしかない。「号」の代わりに「番」を使い、数字の後ろには、必ず、「番」をつけるようにすればよい。以来、相手が数字だけを言っても、また、数字に「号」をつけても、私は、必ず、「番」をつけて確認するようにしている。

 極たまにではあるが、私が「番」を使わなくても、向こうの方から「番」を使ってくれる書記官もいたりして、同志を見つけた喜びに浸ることもある。

「つしんきんにいってきたんです」

「つしんきんにいってきたんです」


 受話器の向こうの依頼者の言葉に思わず「えっ?」と聞き返した。

「だから、つしんきんに行ってきたんです。」
「・・・」
「つしんきんなんです。」
「つしんきん?」
「津にある信用金庫です」
「あ、三重県の津市にある信用金庫ですね」


 ようやく、理解することができたのだ。

 では、「つしんきん」でなくて、これなら、どうだっただろう。

「うつのみやしんきんにいってきたんです」


 「うつのみや」が「宇都宮」ということは、すぐわかる。すると、地名の次に来る「しんきん」というのが「信金」のことだということもすぐ分かる。だから、一度聞くだけで、栃木県にある宇都宮信用金庫と理解できるのだ。

 この差は、「つ」が1音節、「うつのみや」が5音節という違いに由来する。

 「つ」という1音節で「津」と理解するのは極めて困難だ。
 これに対して、「うつのみや」と言えば、「宇都宮」以外、他に思い浮かばないくらい、明確だ。

 「津信金」であることを一度で分かってもらうには、「みえけんにあるつしんきんにいってきました」と言うほかない。

 「みえけんにある」と聞けば、「三重県」であることは明瞭である。

 そして、その瞬間、「三重県」に関連する言葉がいくつも浮かんでくる。そう、三重県と言えば、まずは、「赤福」「松阪牛」だ。次に浮かんでくるのが、「伊勢神宮」「伊勢志摩」「鈴鹿サーキット」といった観光地だろう。「四日市」「津」「桑名」「名張」といった都市の名前も浮かんでくる。さらに、三重県出身の知人や有名人の名前も浮かんでくる。

 そういった様々な言葉が一瞬のうちに浮かんできて、その状態で、「つしんきん」と聞けば、「津信金」と的確に理解できるのだ。

 もちろん、「三重県」と聞いただけで多数の言葉が明瞭に意識の上に上ってくるわけではない。次に耳に入ってくる音声の、いわば「候補」として、脳が準備を始めるのである。その準備ができているからこそ、「つ」は、「津」と理解できるのである。

 だから、会話の中で音節の短い単語を使う場合は、本来であれば不必要な情報を付け加えることによって、この「準備」を脳に促すことが重要なのである。

 これまで、書き言葉の「分かりやすさ」を論じてきたが、話し言葉には、こういった、書き言葉とは違った配慮が求められるのである。

駐車場から事務所まで、58メートルです

駐車場から事務所まで、58メートルです。


 とある事務所のホームページの記載だが、「分かりやすさ」と言う点では、何の問題もないような一文である。

 だが、どこか、引っかかる。引っかかるのは、「58メートル」という数字である。かりに、これが、「58.37メートル」なら、誰でも、おかしいと思うだろう。

 要するに、駐車場と事務所の距離を表示するのは、来訪者に、およその目処をつけてもらうためである。その目的からすれば、「60メートル」で十分である。それ以上に細かい数字は、意味がない。意味がない以上、ないほうがよい。

 多重債務の相談を受けるときに、真っ先に聞くのは、借金の額である。これなども、相談者によっては、1円単位まで細かく答える人がいるが、これも無駄な情報である。聞く側からすれば、10万単位くらいの大まかな数字で十分である。最初の相談の段階では、これ以上の細かい数字を聞いたところで、余り意味がない。でも、相談者は、「少しでも正確に」と言う意識が働くため、必要以上に細かな数字を答えるのだ。

 いつ頃からの借金か、ということも、平成何年の何月何日というところまで、答える人もいるが、これも、聞く側からすれば、無用に詳しい情報である。せいぜい、2,3年前、4,5年前、あるいは、10年くらい前、という情報で十分である。

 要するに、最初の段階で弁護士が尋ねるのは、ざっくり、任意整理できそうか、あるいは、破産しか選択の余地がなさそうか、という判断をするためである。もちろん、最終的な判断は、債権者からの取引履歴の開示を受けて利息制限法計算をしてからということになる。だから、相談の段階で相談者からいくら詳しい数字を聞いたところで、それをそのまま前提とするわけにはいかないのであり、いずれにせよ、無駄な情報ということになる。

 とはいえ、無駄な情報だからといって、相談者が話そうとしているの遮ってしまうのは禁物である。そんなことをしたら、相談者には、弁護士が話を聞いてくれないという不満が鬱積するだけである。それだけではない。当面は「無駄」であっても、将来的には「必要」な情報になる可能性も否定はできない。

 このように当面は不要な情報を相談者が伝えようとしたときは、「よく細かい数字まで整理されていますね」と敬意を払った上で、微妙なバランスを取りながら、真に必要な情報を依頼者から聞き出すことが求められるのである。

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「時間泥棒」仕置人

Author:「時間泥棒」仕置人
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 弁護士として、どうすれば、効率よく、的確に、情報を取得・提供できるか、ということを常に考えています。

 ところが、そんなことには無頓着な人も多いようで、読者に対する配慮の一欠片もない文章を目にすることがあります。

 難解な文章で読者の貴重な時間を奪ってしまう人達のことを、「時間泥棒」と名付けました。

 このブログは、「時間泥棒」を立派に更生させることを目的として開設したものです。

 記事を読んで、自分も「時間泥棒」かな、と思ったら、早速、改めて下さい。また、あなたの廻りに「時間泥棒」がいたら、あなたの力で立派に更生させてあげて下さい。

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