目を覚ましたメリーは、恐怖のあまり地下室に潜んでいた男を殺してしまう

メリーは、夫であるトニーが海外から帰ってくる日に、自宅で暴漢に襲われる。
目を覚ましたメリーは、恐怖のあまり地下室に潜んでいた男を殺してしまう。
                               【映画「雨の訪問者」の解説記事(Wikipedia)】       



 さて、メリーが恐怖のあまり男を殺したのか、男が恐怖のあまり地下室に潜んでいたのか、「恐怖」の主体が誰なのかは不明である。これを明確にする手っ取り早い方法は、読点を打つことだ。

 ① 目を覚ましたメリーは、恐怖のあまり地下室に潜んでいた男を、殺してしまう。

 ② 目を覚ましたメリーは、恐怖のあまり、地下室に潜んでいた男を殺してしまう。

これなら明確だ。

 読点のつけ方を一般的に論じるのは困難なことだが、ここで試みた読点の付け方を可能な限り抽象化してみよう。

 ABCDという4つの文節からなる文を考える。
 意味の上では、BがCを修飾していても、Dを修飾していても、別に不自然ではないとする。
 その場合、この文を読んだだけでは、どちらなのかは不明である。
 ところが、読点を用いて
 AB、CD とすれば、BはDを修飾していることになり、
 ABC、D とすれば、BはCを修飾していることになる。

 次に例文を示す。

 私は急いで逃げた男を追いかけた
 (A:私は B:急いで C:逃げた男を D:追いかけた)

 私は急いで、逃げた男を追いかけた
 私は急いで逃げた男を、追いかけた

 では、次の例文はどうだろう。

 私は力強く寝ている男を揺さぶった

 これは読点は不要だ。「力強く」が「寝ている」を修飾しないことは意味の上で明確だからだ。

 「急いで」と「逃げた」
 「力強く」と「寝ている」

 同じく、ABCDからなる文でも、BとCの親和性がなければ、読点がなくても、修飾、被修飾の関係は明白である。

 とは言っても、「親和性」というのも様々なレベルがあり、読点がなければ、ほんの一瞬ではあるが、「力強く」が「寝ている」と結びつくような感じがしないでもない。もちろん、意味の上では結びつかないのだから、すぐに、「力強く」は、もっと後ろの動詞を修飾するのだろうということはわかるのだが、それでも、読み手に対する配慮としては、この一瞬の迷いも生じさせないようにすべきであろう。

 そうすると、この例文の場合も、

 私は力強く、寝ている男を揺さぶった とすべきだろう。

 なお、ここでは、読点によって、修飾、被修飾関係を明確にする方法を論じたのであるが、語順を入れ替えることによっても、同様の目的を達することができるのは、もちろんである。

 私は寝ている男を力強く揺さぶった。

 日本語では、後ろの文節が前の文節を修飾することはないのだから、「力強く」が、直前の「寝ている」ではなく、直後の「揺さぶった」を修飾していることは明白である。

 ただ、こうすると、今度は、「私は」が「寝ている」にかかっているようにも読めるので、やはり、一瞬ではあるが、思考が中断する。

 その点まで配慮するなら、

 私は、寝ている男を力強く揺さぶった とするのがいいだろう。
 
 さて、冒頭の例文に戻るが、メリーが暴漢に襲われたという記述が直前にあるのだから、文脈から、メリーが恐怖したのだということは分からないではない。とはいえ、文脈に頼らなくても、その一文だけを取り出しても一義的に明確な文の方が、より分かりやすいのは確かであり、そのような文章こそ読者に対する配慮に満ちた文章である。
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 このブログは、「時間泥棒」を立派に更生させることを目的として開設したものです。

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