ノーベル賞の発表時刻  比較の対象を間違えない 

 昨年に続いて今年も日本人のーベル賞が期待されるが、生理学医学賞の発表まで、あと十数時間と迫っている(10/6・日・23:50 現在)。

 念のため、【ノーベル財団のウェブサイト】を見たところ、発表までの時間が秒単位まで表示されており、その数字が、文字通り刻一刻と減って行く。

ノーベル賞発表-1
右下の時計は、パソコンのデスクトップに貼り付けた時計

 表示のとおり、あと11時間強ということは、7日の午前中の発表ということになるが、例年は、午後6時過ぎだったように思う。

 そこで、画面をスクロールすると、こんな表示があった。

ノーベル賞発表-2

 ストックホルムの現地時間で午前11時30分というのだから、時差が7時間ある日本では午後6時30分であり例年通りである【Time-j.net 世界時計 - 世界の時間と時差】。

 ということは、あと18時間あまり後ということになり、冒頭の「11:37:38」というのは、大きな誤りということになる。

 では、いったい、どうして、こんな間違いが生じたのか。数字を眺めているうちに、原因が分かった。

ノーベル賞発表-4

 上の図のとおり、ストックホルム時間の発表時刻から日本時間の現在時刻を引き算して、「11:37:38」と表示しているのだ。

 発表時刻から現在時刻を引き算すること自体は正しいのだが、引き算をする以上は、現地時間同士、あるいは、日本時間同士の引き算でなければ何の意味もない。

 本来、比較すべきでないものを比較して引き算をしたために、こんな間違いが生じたのだ。

 翻って考えると、ノーベル財団のウェブサイトの担当者は、発表時刻から、使用しているパソコンに設定された現在時刻を引き算したのであり、これなら、ともにストックホルム時間同士の引き算であり、正しい時間が計算される。

 けれども、世界中のパソコンがストックホルム時間に設定されているわけはなく、それぞれ各地の時間が設定されている訳であり、その時間を現在時刻として、ストックホルム時間の発表時刻から引き算をしたために、上記の間違いが生じたという訳である。

 ウェブサイト担当者が、パソコンの現在時刻ではなく、ストックホルム時間の現在時刻を差し引くようにしていれば、こんな問題は生じなかったのである。

 今回の間違いも、情報の受け手の様々な属性に対する配慮が欠けていたために生じた間違いである。

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----- 追記 2019.10.7 -------------------------------------------------------------------

 ノーベル財団のウェブサイトの間違いについては、その後、毎日新聞が報道している【毎日新聞 2019.10.7 13:49 ノーベル賞カウントダウン 7時間早く「Live!」 財団サイト】。



  

「と金にごとくはない」

 宮崎県出身の将棋棋士と言えば、谷川浩司九段の唯一の弟子で、将棋漫画の主人公のような名前の都成竜馬五段が有名だが、その宮崎県で行われた将棋大会を報じる記事の中に、次のような記載がある【EMIとTABOの将棋世界 宮崎日日新聞 2016.12.4】。

 
ごとくはない


穴熊を攻めるに、と金にごとくはない。 


 「ごとくはない」って何だろう。

 名詞で「ごとく」と言えば、思い浮かぶのは五徳だが、普通は将棋の観戦記の中に出てくる単語ではない。

 では、「如く」か? 比喩的表現をする際に、例えば、「プロ棋士の如く、鮮やかな手順で玉を追い詰めた」というふうに使われることもあるが、ここは、比喩ではない。

 文脈から考えると、相手の穴熊囲いを攻めるには、攻める過程で駒を捕られることは避けられないので、どうせ捕られるなら価値の低い「と金」を使うのが一番いい、ということを言いたいのだろう。

 だったら、「と金にしくはない」だ。漢字を使えば、「と金に如くはない」となる。

 そうか、観戦記者は「如くはない」の読みを「ごとくはない」と間違って覚えていて、その読みを書いたのだ。

 如 (し) くはな・い

それに及ぶものはない。それが最もよい。「用心するに―・い」
.。。。。。。。。。。。。。。。。         。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。デジタル大辞泉(小学館)

 
 今回のような誤記を見ると、新聞社の整理部は、どうなっているのだろうと思う。
 
 「如くはない」の読みは、特別に難解なものではなく、新聞社の入社試験に出てきてもいいレベルのものである。そんな漢字の読み誤りが放置され、読者の目に触れるのである。

 観戦記は、新聞社の記者ではなく、記者としての訓練を経たことのない、プロ棋士、アマ高段者、詰め将棋作家などが務めることもあるのだが、そんな場合こそ、専門家である新聞社の整理部がバックアップしなければならないはずである。

 ネット上には、このレベルの誤記は山ほどあるが、個人のブログなどでは、やむを得ない面もある。私だって、今回指摘したレベルの間違いを冒していないという自信はない。

 けれども、新聞記事は、個人のブログではない。組織として何人もの目に触れた上で公にされているのだ。

 確かに、大勢で見ても見つけられないという類いのミスもある。単純な誤字脱字とか、「薇薔」のように一見正しそうだが順番が逆になっている漢字とかであり、人がチェックする以上は根絶は無理かも知れない【薇薔、蝠蝙、拶挨】【あざいお市マラソン】。

 けれども、今回のは、「と金にごとくはない」という、そのまま読めば意味不明な記述である。「チェックをするぞ」と気合いをいれなくても、普通に読めば、おかしいことに気づくはずである。

 こういった誤りが見過ごされて新聞の紙面に載ってしまうのは、なぜなのだろう、不思議でならない。

----- 追記 2019.9.26 -------------------------------------------------------------------
 
 冒頭の【EMIとTABOの将棋世界】のEMIというのは、将棋の女流二級の【山口絵美菜女流1級】であり、TABOというのは、その弟の山口孝貴元奨励会初段である。

 ブログを書いているのは、二人の母親である。

 弟の方は京大出身の初の将棋の棋士になるかと期待されていたのだが、学業を優先して奨励会は退会した。姉の方は、京大文学部を卒業直前に女流2級に昇級して、女流棋士となり、対局の解説の聞き手や、将棋界に関する記事【日本将棋連盟・将棋コラム】【日本将棋連盟・女流棋士ブログ】などで活躍している。

 
 




あざいお市マラソン

 つい先ほど、フェイスブックで見た投稿だが、友人が、「あざいお市マラソン」にやって来て、これからスタートする、とのことだった。

 私は、「あざいお」の部分を見て、ベトナムの民族衣装「アオザイ」と読んでしまい、ベトナムには、そんな名前の都市があるのか、それにしても、そんな遠くまで走りに行くのかと驚いてしまった。

 よくよく読んで行くと、「あざいお市」というのは、信長に滅ぼされた淺井(「あざい」であって、「あさい」ではない」)長政の妻・お市の方のことで、淺井氏の居城のあった長浜市が、お市の方を偲んで、マラソン大会を企画したということだった。

 誤解したのは、私の思い込みによるものだが、「あざいお市」でなく、「浅井お市」となっていたら、決して誤解することはなかったはずだ。

 つまり、誤解の原因は、次の2点だ。

①「浅井」を、ことさら平仮名で書いたために、次に来る「お」と一体となって、「あざいお」となってしまったこと

 

②「あざいお」という4文字をみた瞬間、4つの文字を、一文字ずつ読むのではなく、この4文字からなる言葉の中で自分の知っている言葉を探して、これに合致する、「アオザイ」と結びつけてしまったこと

  
 ①の一体化を避けるには、「あざい」を漢字にするほかに、「あざい お市」のように、意味の切れ目にスペースを入れる方法もある【スペースの効用】。

 ただ、この方法だと、「あざい お市マラソン」となり、「お市」が、「あざい」と離れて、「マラソン」と一体化してしまう。意味の上では、(「あざい」+「お市」)+「マラソン」なのだから、適切な表記とは言えない【スペースの弊害】。

 次に、②の点だが、次の英文を読んでほしい。  

I understnad waht you thnik.


 ちゃんと読めただろうか。中学校レベルの単語しか使っていないはずなので、読めないはずはない、と思われるが、3か所、スペルミス(というより、意図的に文字を入れ替えているのだが)がある。

 では、少し長くなるが、次の英文はどうだろう。

Aoccdrnig to a rscheearch at Cmabrigde Uinervtisy, it deosn't mttaer in waht oredr the ltteers in a wrod are, the olny iprmoetnt tihng is taht the frist and lsat ltteer be at the rghit pclae. The rset can be a toatl mses and you can sitll raed it wouthit porbelm. Tihs is bcuseae the huamn mnid deos not raed ervey lteter by istlef, but the wrod as a wlohe. 【】            【Cognition and Brain Sciences Unit

 
 上記の文章は、元々は、各単語の先頭と最後の文字さえ正しければ、間の文字の順番を入れ替えても読むのに支障はないという、ケンブリッジ大学での「研究」に載っていたものである。「研究」と言ったのは、そういった「研究」がケンブリッジ大学で実際になされていたわけではなく、そういう噂がネット上で流布していたに過ぎないからである。

 ただ、その後、実際にケンブリッジ大学に席を置く研究者が、その噂の出所を追跡するとともに、この「研究」の内容を検証しており、上記の文章は、その検証サイトからの引用である(結局、元の「研究」の孫引きになる。)。

 噂になった「研究」では、「人は先頭の文字と最後の文字しか見ていない」ということだったが、上記の検証の結果、それは否定されている。

 具体的には、こういうことだそうだ。
  ・先頭の文字と最後の文字を固定していても、単語の長さによっては、解読困難なものもある。
  ・文字列としては正しくても大文字と小文字が混在すると読む速度が遅くなるように、人は、単語の形を見て判断している。

 以前のブログ【薇薔、蝠蝙、拶挨】で書いたように、日本語、英語に限らず、人は、文字を一文字ずつ読んでいるのではなく、一塊の文字の雰囲気と、文脈から、文章を理解しているということである。


薇薔、蝠蝙、拶挨

 次の漢字の読みを答えて下さい。

  薇薔  蝠蝙  拶挨







 「ばら、こうもり、あいさつ」と答えるのは普通の人だ。

 答えようとして戸惑ってしまうのは、相当に注意深い人である。

 「こんな言葉は存在しない」というのが、正しい答えだ。

 「薔薇」「蝙蝠」「挨拶」というのは、「読めるけど書けない漢字」の代表格である。
 しかも、どの漢字も、ここに掲げた二字熟語としてしか用いられないものである。だから、よけいに、一字一字の個性など眼中になく、2文字セットの画像で何となく記憶しているのである。だから、漢字の前後が入れ替わっても、さほどに、その画像に違和感を抱かないのである。

 では、次の例はどうか。

  碁囲倶楽部  


 「いごクラブ」と読んだ人が多いのではなかろうか。

 実は、ある囲碁倶楽部の新規開店のチラシなのだが、学生時代、そのチラシを大阪の京阪千林駅前で撒いたことがある。そして、ほぼチラシを撒き終わってから、本来「囲碁」であるべきところが「碁囲」になっているのに気づいたのだ。囲碁倶楽部のマスターも、チラシを作った印刷屋も、それまで気づかなかったのだ。

 冒頭の例の場合は、2文字が同じ部首で外見が似ているため錯覚するのも肯けるのだが、この例は、全く違う漢字である。それでも、このような間違いを犯すのであるから「思い込み」というのは恐ろしいものである。

 では、次の例はどうか。

  愛大六法  


 「愛犬六法」と読んだ人はいないだろうか。「愛大六法」というのは、総務省が法令データ提供システムを始める前の1996年頃から存在した、法令検索システムで、愛知大学が提供していたのだが、現在では、提供を止めている。

 ときおり、お世話になったのだが、見る度に、思わず「愛犬六法」と読んでしまうことが多かった。「大」と「犬」の字面が似ており、「愛犬」という単語は日常的に見かけるのに対し、「愛大」には全く馴染みがなかったため、そのような読み方をしてしまったのである。

 次に掲げるのは、NHKのウェブサイトの選抜決勝戦の実況中継の画面の一部である。

9回表
 2番大谷は四球。無死一塁。
 3番姫野は一塁前送りバント。
 ・・・(中略)・・・
9回ウラ
 龍谷大平安は代走の岩下がそのままライトに入りました。
 2番井上はレフト前安打。無死一塁。


 「ウラ」というのに、違和感を覚えた人も多いだろう。

 だが、私は、さすが「皆様のNHK」、細かいところに配慮が行き届いてると感心したのである。

 漢字で書けば、「表」と「裏」は字面が似ており、パソコンの画面の設定や携帯機器次第では、縦横10ドットくらいで表示されることもあり、「裏」を「表」と誤解する人も出るだろう。そこで、「裏」は、「ウラ」と片仮名で書きして、絶対に誤解を招かないようにしているのである。

 こんなところにまで細やかな配慮ができるNHKである。最近、「誤解を招く」ことに頓着しない人が会長になったようだが、こんなところにまで「誤解を招かない」ように配慮している制作現場を、ぜひ見習ってほしいものである。

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Author:「時間泥棒」仕置人 (改称予定)
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 玉石混淆の情報が溢れる社会の中で、効率よく、的確に、情報を取得し、提供するには、どうすればいいのか、ということを常に考えています。

 ところが、そんなことには無頓着な人も多いようで、読者に対する配慮の一欠片もない文章を目にすることがあります。

 難解な文章で読者の貴重な時間を奪ってしまう人達のことを、「時間泥棒」と名付けました。

 このブログは、「時間泥棒」を立派に更生させることを目的として開設したものです。

 記事を読んで、自分も「時間泥棒」かな、と思ったら、早速、改めて下さい。また、あなたの廻りに「時間泥棒」がいたら、あなたの力で立派に更生させてあげて下さい。

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