法定承継取得説と順次取得説  実態を反映した名称をつける

 今日の話題は、法律に馴染みのない方には、とっつきにくいかも知れないが、前提知識がなくても理解できるように「分かりやすく」書いているので、投げ出さずに最後まで読んでほしい。

 まず、民法94条の「虚偽表示」に関する説明である(「まず」と書いたが、登場する法律の条文は、これ一つだけである。)。 

 土地が、XからAへ、AからYへと、順次売却された場合、土地の所有権はX→A→Yと移転する。

 ところが、例えば、Xが土地に対する強制執行を逃れるために、事情をAに話して、形だけ土地をAに売ったことにした場合は、XA間の売買は「虚偽表示」として、無効になる(民法94条1項)。

虚偽表示-

 X→Aの売買が無効ということは、Aは土地の所有権を取得できないことになる。その当然の帰結として、Yも土地の所有権を取得できないことになる。

 ただし、XA間の売買が虚偽表示であることをYが知らなかった場合は、Yに対しては、虚偽表示による無効を「対抗することができない。」とされ(94条2項)、結果的に、Yは土地の所有権を取得できることになる。


 ただ、上記の「対抗することができない。」の意味については、二つの説があり、各々、次のように説明されている【要件事実・事実認定ハンドブック[第2版]156頁】。

法定承継取得説

「対抗することができない。」とは、善意の第三者YがAを飛び越して、X→Yという物権変動によって直接権利を取得することを意味する。


順次取得説

「対抗することができない。」とは、善意の第三者Yが出現することにより、X→A→Yという物権変動が生じ、Yはこれを前提に権利を承継取得することを意味する。 


 問題は、各説の名称だ。
 
 法定承継取得説の説明の中には、承継という言葉は出てこない

 他方、順次取得説の説明の中には、承継という言葉が出てくる

 これでは、混乱のもとである。

 要は、Yが直接にXから所有権を取得するのか、最初はA、次にYと、順次、所有権を取得するのか、という違いなのだから、その違いを端的に反映させて、次のような名称にすべきである。

   直接取得説
   順次取得説
 
虚偽表示


 不適切な名称がもたらす混乱については、以前の記事 【特定、不特定、どっちなんだ! 】に書いた。

------ 追記 2019.7.29 ------------------------------------------------------------------

 一晩考えて見直してみると、むしろ、こういう名称にする方がいいかも知れない。

   直接取得説
   間接取得説

 このように「直接」「間接」という対になる言葉を用いた方が、分かりやすいように思う。

 要するに、所有権が、Xから直接Yに移転するか、XからAを経て間接的にYに移転するか、の違いだからである。




正しく事実を認識するには

 これまで、主に、情報を発信する側の立場で「分かりやすさ」を追究してきた。

 今回は、情報を受信する側の立場で、それも、単なる「分かりやすさ」というよりも、情報の信頼性を、どう評価するか、という観点からの考察を試みた。

 予め断っておくが、以下の話は、刑事訴訟法の勉強をしたことのない人には、少し馴染みの無い話になって申し訳ないが、予備知識がなくても、最後まで読んで行けば理解してもらえるはずなので、多少の取っつきにくさは我慢して、読み進めて欲しい。 

 刑事訴訟法の「伝聞法則」に関連して、どの基本書にも、供述証拠(目撃証言など、人が語った内容が事実認定の根拠となるような証拠。これに対し、指紋などは、「非供述証拠」と言われる)は、「知覚、記憶、表現、叙述」の過程を経て法廷に顕出されるのであり、その各過程に誤りが混入する可能性があるから、それを反対尋問によって検証しなければならない、ということが書かれている。

 抽象的に、このように説明されても、なかなか分かりにくいものだが、これを図解すると、以下のようになる。
供述


 また、「各過程に誤りが混入する」というのは、以下のことを指す。

知覚 Aを、誤って、Bと認識する 【見誤り】
記憶 Bを、誤って、Cとして思い出す 【記憶違い】
表現 記憶上はCだが、Dと答えようと考える 【嘘】
叙述 Dと言おうとして、誤って、Eと言う 【言い誤り】


 刑事訴訟法の「伝聞法則」に関する解説は、法廷での証言の話だが、よくよく考えてみると、その場面に限定されるものではない。

 弁護士が依頼者あるいは関係者から話を聞くのも、裁判官が法廷で証言を聞くのも、構造的には全く同じであり、正しい事実認識をするためには、上記の各過程(知覚、記憶、表現、叙述)で誤りが混入する可能性を常に意識しておく必要がある。

 そのためには、どうすればよいのか。

 まず、「誤り」が、どのような原因で発生するのかを徹底して分析して、そのような要因が存在しないかを常に意識することが必要ということになる。

 そこで、まず、上記の過程の【知覚】において、どのような原因で誤りが発生するのかを分析してみる。上記の図の、「A→B」の過程である。
知覚-2

 まだ、思いつきの域を出るものではないが、こういった可能性を常に意識しながら話を聞く姿勢が大事だと考えている。

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 「表現」と「叙述」という用語は、日本語の意味として、上に述べたことに必ずしも対応しているとは言い難いのだが、伝統的に、このような使われ方をしてきているので、「分かりにくい」とは思いながらも、他に適切な用語がないので、そのまま用いた。 【2016.3.28 追記】

 また、「反対尋問」「伝聞法則」そのものについても、語るべきことは色々あるのだが、ここで言及すると、あまりにも盛りだくさんになってしまうので、またの機会に述べることにする。 【2016.3.28 追記】

「積極否認」を図解する

 先日、「積極否認」について文章で説明をした【読者への挑戦! 「積極否認」の解説】が、今回は、図解をしてみた。
積極否認


この図をみれば、下記のことを、思い出すことができるはずである。

【1】積極否認の定義 「相手の主張事実を否認するために、その事実と両立しない事実を主張する行為」を積極否認と呼ぶこと
【2】積極否認において主張する事実は、抽象的な事実では、積極否認としての意味がないこと
【3】積極否認において、複数の事実を主張すると、それらが互いに両立しない場合には、意味をなさないこと

(抽象的な事実による「積極否認」について補足すると、当該抽象的事実に該当する具体的事実のうち、一つでも、否認対象の事実と両立したとすると、全体としても、「両立する」ことになり、「積極否認」としての意味をなさないのである)

(上記の点、更に補足すると、上の図の例では、「どこかの裁判所」となっていたために、全体として「両立する」ことになったが、「どこかの大学で講義をしていた」であれば、およそ、どこの大学であったとしても、東京地裁から離れているため、「両立しない」ことになり、一応、「積極否認」としての意味はあることになる)

(もちろん、この場合でも、具体的に「○○大学の○○教室で、○○という講義をしていた」という、反証可能な形で主張しなければ、その主張の信憑性は著しく低くなる)

 法律学の基本書と言えば、私が学生の頃は、みな、文字だけで、図など書かれていなかったが、20年くらい前から、結構、図や表が取り入れられているようになってきている。

 それは、
 ① 視覚に訴えることによって、理解が容易になる
 ② 図の記憶が残ることによって、内容も記憶に残りやすくなる
といった効果を期待してのことだろうし、実際、それだけの効果はあるはずだ。

 では、なぜ、視覚に訴えると、理解が容易になるのだろうか。

 おそらく、文字情報は、一時点で一部しか頭の中に留めて置くことができないのに対し、図形情報は、どの時点でも、全体像を頭の中に留めて置くことができるからではないだろうか。

 常に、全体の情報を頭の中に留めて置くことができれば、情報相互の関係を考察することが可能になり、従って、理解も進むということだろう。

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 当初の図を修正し、抽象的な積極否認につき、補足した【2016.3.20 追記】。

とある法律相談

 弁護士会では自治体から法律相談の委託を受けて、弁護士を派遣している。ときおり、弁護士の対応が悪いという苦情が寄せられて、会として、事実関係を確認の上、担当の弁護士に注意を促すことがある。

 中には、まったくの「濡れ衣」というのも無いではないが、弁護士の側が、もっとうまく対応できなかったのだろうかという事例も結構ある。

 中には、こんな対応をされたら相談者が怒るのは当然だろうというものもある。

 次の例は正月明けの相談の対応例である(実例をもとにしているが、かなり脚色している)

相談者「この請求書を見て下さい。一年前の忘年会の後で寄ったスナックからの請求書です。とっくに払っているのに、慰謝料とれますよね」
弁護士「慰謝料?」
相談者「その場で払ってるのに、こんな請求書を送ってきたんです。先月も送ってきて、放っといたら、こんなのが来て。今度は、払わんかったら裁判するとか書いてますやろ。裁判かけたいのは、こっちのほうですわ。」
弁護士「それで?」
相談者「払ってるのに裁判かけるぞなんて脅して、こんな失礼な話ないでしょう。こっちから慰謝料とれますよね。」
弁護士「無理です。」
相談者「何であかんのです。こんなことされてるのに。」
弁護士「無理なものは無理です。」
相談者「ちゃんと払ってるのに、なんでですの」
弁護士「そもそも、あなたが払ったかどうか分かりませんしね」
相談者「払ってるから相談に来たんやないか。もう、ええわ」



 大きく問題点は、二つある。

【1】 相談者の求める法律効果に対応する要件事実が存在しないか注意する



 相談者は、「慰謝料」を求めているのである。弁護士なら、慰謝料請求権の発生要件が分かっていて当然である。他方、相談者は、そんなことは分からなくて当然である。

 相談者は、自分が見聞きした事実の中から、重要であると思われる事実を弁護士に伝えて、自分の求める権利が認められないか相談するのである。

 であれば、弁護士は、相談者が話した事実だけでは、相談者の求める権利が発生したとは言えない場合であっても、相談者の話していない事実で、かつ、相談者の求める権利の発生を基礎づける事実を想定して、そのような事実がないか、相談者に尋ねなければならない。

 本件で言えば、まず、慰謝料を求めるとすれば、不法行為に基づく請求ということになるが、単に、支払い済みの代金の請求書を送りつけただけでは、不法行為にはならないだろう。

 とはいえ、支払済みの代金の請求書を送りつける行為が、絶対に不法行為にならないかというと、そうでもない。

 たとえば、相手方に未払と勘違いさせて二重払いさせようという意図で請求書を送付したのであれば、立派な詐欺未遂であり、不法行為が成立することは明らかである。

 また、相手方に対する嫌がらせの目的で、執拗に請求書を送りつけるという場合も、不法行為の成立が認められよう。

 そうすると、そのような事案の可能性がないのか、相談者から、聞き出さなければならない。

 たとえば、「請求書が来たのは、今回が2回目ですか」とか「電話などでも督促はあったのですか」とか「請求書に対して先方に支払い済みということは伝えましたか」などの質問が考えられる。

【2】 相談者が主張する「事実」は実際に存在するものとして、話を聞く


 相談者が「払った」と言っていても、客観的には、実際に払ったかどうかは分からない、というのは、そのとおりではある。だが、ことさらに嘘の事実を話して法律相談を受けようという人は少ないはずであるし、相談相手の弁護士から「あなたが払ったかどうか分かりませんしね」と言われれば、腹をたてて当然である。

 もちろん、弁護士の立場からすれば、依頼者の話すことが真実であっても、それを裁判で立証できるかどうかは別問題であるから、立証手段の存否を確認するための質問は必要である。

 たとえば、「お支払いの時の領収書とか、振込受付書とかは残っていますか」という質問は欠かしてはならない。
 
 さらに、本件では、支払を証明できない場合、消滅時効の成否が微妙となる。1回目の請求書が、1年以内の送付であれば、その後、6か月以内に提訴すれば時効にかからないのであるから、いつ届いたかが重要である。

兄の名前は「坂上二郎」

Xの兄を「坂上二郎」とする。

 これは、要件事実マニュアルで有名な岡口基一判事の「要件事実入門」の中の説例の一節(同書101頁)である。

 同判事の年齢からして、コント55号の全盛時代に幼稚園児だったことから、「坂上二郎」という名前が刷り込まれているのかもしれないが、兄を「二郎」とするのは、いただけない。

 「二郎」という名前は、どうしても「兄」ではなく、「弟」と結びつく。もちろん、三人兄弟のこともあるのだから、Xが一番下の弟であれば、「二郎」は「兄」には違いないのだが、「二郎」と言われると、上に「一郎」がいるのが自然だし、「二郎」には、どうしても、「弟」という属性の方がなじむのである。

 だから、男二人の兄弟なら、「太郎」「次郎」あるいは、「一郎」「二郎」とするのが、直感になじむし、混乱することもない。

 仮に、兄を「薫」、弟を「忍」としたら、年齢の上下関係どころか、性別まで判然としなくなる。

 法律問題の解説で、登場人物を指すのにX,Yといった無機質な記号を用いず、具体的な人名を用いるのは、よりリアルに事実関係を思い浮かべてもらいたいからである。だとすれば、平凡極まりなくても、名前そのものが、その人の属性を語っているような付け方が好ましい。

 私が中学生のころに、父親が買ってきた一般向けに書かれた法律雑学知識の本があった。中身は、「隣から越境してきた柿の木の実はとってはいけないが、地中を伸びてきて地面から顔を出したタケノコはとってもいい」とか「飲み屋のつけは、一年で時効になる」といった類のものだった。

 その本の説例の登場人物は、鈴木さん、田中さん、といった名前ではなく、説例に則した、それっぽい名前をしていた。たとえば、お金を貸したのは樫田さんで、借りたのは苅田さん、平社員は平野さんで、部長は上野さんである。こんな名前なら、解説を読んでいるうちに途中で誰が誰だか分からなくなって混乱するということもないのである。

 混乱を避ける、という点では、人の名前だけでなく、具体例として数字を挙げる場合にも、注意が必要である。

 たとえば、金銭貸借に関する説例の場合、1000万円借りて500万円を返した、というと、その後に、500万という数字が出てきたとき、それが、残債務の500万円を指すのか、弁済額の500万円を指しているのか、混乱しがちである。

 こういう場合は、1000万円借りて300万円を返した、という説例にしておけば、700万は残債務、300万円は弁済額だから、数字を見て、それを取り違えることも少なくなるはずである。

 他にも混乱を避けるための工夫はいろいろある。

 たとえば、登場人物の居住地でも、一人は島根県、もう一人は鳥取県としたら、混乱するのは目に見えている。一人は東京、一人は北海道というふうにした方が混乱を招かないのは明らかだろう。
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「時間泥棒」仕置人 (改称予定)

Author:「時間泥棒」仕置人 (改称予定)
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 玉石混淆の情報が溢れる社会の中で、効率よく、的確に、情報を取得し、提供するには、どうすればいいのか、ということを常に考えています。

 ところが、そんなことには無頓着な人も多いようで、読者に対する配慮の一欠片もない文章を目にすることがあります。

 難解な文章で読者の貴重な時間を奪ってしまう人達のことを、「時間泥棒」と名付けました。

 このブログは、「時間泥棒」を立派に更生させることを目的として開設したものです。

 記事を読んで、自分も「時間泥棒」かな、と思ったら、早速、改めて下さい。また、あなたの廻りに「時間泥棒」がいたら、あなたの力で立派に更生させてあげて下さい。

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